スー・ラー

清涼院流水著「ジョーカー 涼」読了。

清涼院流水は本作で、作中に提示する推理小説構成要素30項目をすべて網羅した推理小説の総決算的な小説を作ろうと試みたらしい。けど、結構な部分で「ん?」ってなる場所があり、試みが成功したかどうかは疑わしい。
作中、登場人物が、「推理小説では人物描写が希薄になる傾向がある」っていう趣旨の台詞を述べる箇所があるのだけれど、探偵が得意満面で推理を披露した後に、登場人物が「おぉ!」と感嘆の声を上げたりとか、推理の見事さに拍手が起こったりだとか、連続殺人が起こっている現場ではおよそ考えられないような描写があって、先述の推理小説が陥りやすい傾向を体現しちゃってるんではないかと。あと凄惨な殺人事件が起こっているのに、事件現場である宿泊施設に登場人物が(退避できる状態であるにも関わらず)そこに留まったり。勿論、そこに留まらないといけないような理由も少し書いているけど、束縛感がなく、根拠に欠けている。また、推理小説のトリッキーな部分が全面に押し出されているけど、解決にこじ付け感がキツイものも少なくない。凄いって思える凝ったトリックが中にはあっただけに残念。ただ、作者の意気込みが溢れている、いわゆる意欲作ではないでしょうか。